編む植物図鑑 1

アオイ科~アワブキ科

アオイ科;Malvaceae

■Abelmoschus esculentus

オクラ。茎から皮を剥くことができる。ただし畑の栽培では背も低く枝分かれも多く、途中で切れてしまうが、大きく育つ地域では繊維植物として使う。Abelmoschus属の仲間は繊維を使う種類が多い。
写真は畑で育てたもので80㎝の高さの茎の繊維。外側の皮はもろいが、靭皮繊維は強い。


■Abelmoschus manihoto: (トロロアオイ属)

トロロアオイ。根から出る粘液を紙漉きのネリにする。
樹皮と木部から繊維が採れ、縄、糸類などに利用される。また紙も作ることができる。
西アフリカで4000年前、エジプトで3000年前には利用していたとの記述がある。外皮、木部ともに繊維があり、いろいろな用途に使った。

■写真は日本で。関東の畑でも普通に栽培が可能。夏の日光が充分に当たると背が2m以上に高くなり、茎も太く大きく育ち、外樹皮も簡単に剥けた。外皮を取り除けば、繊維を取ることができるが、かごを編む素材として外皮をそのまま利用できる。




■Abroma augustum

枝の外皮から靭皮繊維をとる。この繊維は非常に丈夫。
●資料:繊維の取り方の説明など:Reite Plants: An Ethnobotanical study in Tok Pisin and English by Porer Nombo and James Leach(パプワ ニューギニアのReite村の政府代表者と人類学者が書いた地域の植物利用について。Tok Pisin語と英語の併記,p29)



■Abutilon:(イチビ属)

イチビ属について:靭皮繊維を利用。以前は世界規模で栽培、その繊維を使っていたが、他の優位な繊維に代わられた。
日本でも古くから(平安時代から)繊維を取るために栽培されていた記述がある。北アメリカに輸入されたが、その繁殖力は強く脅威となった。
現在も栽培されているが、旺盛な繁殖力から現在では雑草となっている。生育地は、熱帯アフリカ、北米南、メキシコ、南・東南アジア、日本など。
A. abutiloides、A.angulatum, A.asiaticum, A. bedfordianum, など


■A. theophrasti Medic.

イチビ、一年生草本。生育地:亜熱帯など。靭皮繊維が縄、糸、袋、芯材の材料になる。白く強いジュートに似た繊維がとれ、中国で栽培されて、絨毯、紙が作られた。China juteと呼ばれ、やがて世界中に広がっていく。インドで繊維を利用。 縄にするため、北アメリカにも導入されたが、あまり利用はされなかった。そこではvelvet leafとも呼ぶ。
★ウエブ資料:イチビの繊維が大分県の七島藺の畳の経糸に使われた。その栽培などの情報がわかる。『民具から見る七島藺』2017.1.12更新


■Brachychiton populneus

アボリジニが外皮を使って網を作る。
■資料web:Aboriginal plant use in south-eastern Austoralia
Brachychitonの仲間は他にも外皮から繊維をとり、魚網や釣り糸、ルーピングのバッグを作る種類がある。


■Ceiba属

Ceiba pentandraなど。カポック。実の内側から繊維をとり、いろいろな物に利用する。


  

■Corchorus olitorius L. :(ツナソ属)

シマツナソ。野菜のモロヘイヤのこと。日本の伝統的な繊維植物では無いが、りっぱに皮が剥けます。 細いが丈夫な外皮を茎から取り、編み素材にすることができます。
乾燥していると難しいので採れたてのフレッシュな茎が最適です。 樹皮と木部から繊維が採れ、縄、糸類などに利用される。また紙も作ることができる。
西アフリカで4000年前、エジプトで3000年前には利用していたとの記述がある。外皮、木部ともに繊維があり、いろいろな用途に使った。
■関東の畑でも普通に栽培が可能。夏の日光が充分に当たると背が2m以上に高くなり、茎も太く大きく育ち、外樹皮も簡単に剥けた。外皮を取り除けば、繊維を取ることができるが、かごを編む素材として外皮をそのまま利用できる。


■Corchorus capsularis

ジュート(ツナソ)。インド原産の多年草ベンガル地方、バングラディッシュが主産地。高温多湿地帯。栽培され、靭皮からジュート(jute)と呼ばれる繊維をとる。 繊維は綱麻(つなそ)、黄麻(こうま)とも呼ばれ、マット、袋なども作る。


■Dombera spp.

アフリカ、マダガスカルに生育。たくさんの種類があり、その繊維を利用する。


■Eriolaena spp.

東アジアに生育。その繊維を利用する。


■アオギリ Firmiana simplex

アオギリ属には繊維を利用する種が多い。東南アジア、中国原産 樹皮に繊維があり、繊維、紙の材料などになるらしい。木部で家具なども作るとある。日本でも縄のほか、紙、漁網などに使われた記述がある。
街路樹でもみかける。 東京の青山にまだ小さなアオギリが生えていた。切り取られたので皮を剥いてみた。紙のように薄い。牧野富太郎さんによるとこの靭皮繊維で縄をよったとある。 直径は3cmぐらいだったので繊維は無かった。

かつて実は食用にされたそうだ。紙にはなりそうだが、細いせいか、あまり内皮は厚くない。もっと太い樹木だと期待がもてそうだ。木部はひじょうに軽い。子供の時、枝を刀に見立てて遊んだ経験のある人も多い。アオギリをなぜ多く見かけるのか、明治時代の流行であったという記述がウェブにある。





■Gossypium hirsutum

世界中で栽培される。実の毛を綿として利用。別名メキシカン コットン。繊維を利用する仲間が数種ある。
写真はG.nanking、綿の繊維だけを種から取り外すには道具が必要になる。




■Grewia spp.

この属の仲間には外皮から繊維をとり、利用するものが多い。東南アジア、アフリカなどに生育。以下の資料はヒマラヤで栽培されるBhimal Fiberについて。 ウエブ資料:An ingenious use of fibers by Shishir Prashan, Fibre 2Fashion, G.optivaから取るbhimalという繊維についての伝統的な使用、また現在の使用について。(注:ただし、この繊維についての強靭性は不明)繊維を縄、ロープに、テキスタイルや樹皮布にする。


■Hibiscus属

この仲間にも繊維をとる種類が多い。


■Hibiscus mutabilis:(フヨウ属)

枝から樹皮を剥く。 ★ビーダナシ(甑島芙蓉布)はこの仲間。鹿児島県下甑島芙蓉布、中村悦子さんが復元した。 樹皮から繊維をとり、織糸にして織った布が再現された。繊維はほかにも縄 などに利用。 外皮から繊維を取るが白い繊維をとる抽出方法がむつかしい、その方法も含めて中村氏が復元した。 ビータナシのフヨウの種については不明。

★1975年7月発行の民具マンスリーの「甑島瀬々野浦の織布繊維とビーダナシ」下野敏見氏による報告に、冬のに切り詰め初夏に出る枝を切り、1週間ほど水について外皮を腐らせて繊維をとる、との記述がある。 この稿にはイチビの繊維について、クズの繊維と一緒に混ぜて使ったという記述がある。 この稿が書かれた時代には既にビーダナシを織る人はいない、と書いている。2017.1.15更新


■ケナフ Hibiscus cannabinus

畑で栽培することができる。樹皮と木部から繊維が採れ、縄、糸類などに利用される。また紙も作ることができる。 西アフリカで4000年前、エジプトで3000年前には利用していたとの記述がある。外皮、木部ともに繊維があり、いろいろな用途に使った。 ■関東の畑でも普通に栽培が可能。夏の日光が充分に当たると背が2m以上に高くなり、茎も太く大きく育ち、外樹皮も簡単に剥けた。外皮を取り除けば、繊維を取ることができるが、かごを編む素材として外皮をそのまま利用できる。


■モミジアオイ、 Hibiscus coccineus Walt.

★素材ノート★ 北アメリカ東部原産。赤い大きな花が咲くので観賞用として出ている。 バスケタリーの素材として利用したかの記述はみつからないが、伝統的な植物素材以外もトライしてみる価値はある。背が高く伸びた茎を切り、薄い外皮を剥がしてみた。
左の写真がその皮。剥いでから何年も経っているので色が茶色になっているが、剥いだ時は薄い灰色がかったベイジュ。薄いが編める


■Hibiscus syriacus

ムクゲ。外皮をむいて、かごの素材にできる。内側の靭皮繊維が採れる。


■Talipariti tiliaceus

オオハマボウ。防風林、防潮林の利用のほか、樹皮から繊維がとれ、縄類、綱、むしろ、帆、着る物や敷物を作る。沖縄では昔は葉もトイレットペーパーなどとしても用いたと聞いた。内側の木部は軽いため、船や浮き木に使われ、南方では発火材としても利用されたそうだ。 ヤップ島では腰みのの素材になるようだ。
○写真は2003年3月沖縄中部のホテルにあったもの。この樹は比較的小さいが、自生のものはもっと大きいし、枝も入り組んで生えていた。写真はハワイ島のハウ。外来種だが繁茂して低い谷など一体を覆うようになった。hau(ハウ)と呼ばれ、繊維をとり縄などを作る。 高く成長したのをハワイ島で見たが、枝が低く垂れて中に入ることができない。繊維はなんにでも利用した。
繊維は外皮を剥くことで簡単にとることができるし、水につけて繊維を抽出することも可能。 丈夫さ、耐水性を究極に求めなくていい場合などに利用。 このほか、南米、太平洋諸島など繊維を利用する例がある。

■資料:The Canoe Plants of Ancient Hawaii 以下のページでハウについて、 ”まっすぐな若い枝を切り、水に浸す。外側の皮を剥がして内皮の繊維を取り、縄などに使う。外側の皮をつけたまま使う方法もある。”との記述がある。2017.1.15更新 http://www.canoeplants.com/hau.html

■資料:magahua(またはmajahua) cloth: magahua teeの内皮から繊維をとる。

■例: メキシコのChiapasで作られる樹皮布。LacondonまたはLacandon族は縄やかご、着るものを作る。 The Milwaukee Public Museumの下記のページでその文化が紹介されている。2017.1.15更新 https://www.mpm.edu/research-collections/artifacts/lacandon-collection/collection 


次の写真は、上記のhau(ハウ)で、靭皮繊維。樹皮を剥いて水につけて上皮を腐らせて取り、靭皮をとりだす。
ひじょうに丈夫な繊維で長く、テープ状にまとまっている。


■シナノキ:Tilia japonica

樹皮の内皮から繊維をとりでシナ布や縄、かごを編む。
福島県三島町では繊維をモワダと呼び縄になって部分的に箕やかご、身につける物を編む。北海道アイヌ民族の重要な繊維植物。木部を薄くけって経木にする。
★素材ノート:繊維を採るには2つの方法があり、一つは採取後、煮る、もう一つは水に浸けて外皮を腐らせる方法、またはその両方。北方先住民がオヒョウの代用として用いた。北海道アイヌ民族の編み袋にはシナノキの生皮を用いたものがある。テープ状になった繊維束をそのまま別糸のもじり編みでとめる。
■資料:アイヌ生活文化再現マニュアル、企画・制作:財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構。織物やかご、舟などに繊維を使う。資料にはシナノキからの繊維の取り出し方が詳しく紹介されている。シナノキの繊維はいろいろな所に使われていたことがわかる。今は麻縄に変わったが、舟を綴る作業も資料にあり、面白い。
■資料:山形県関川の活動(2017.2.5更新):関川しな織協同組合HP、http://sekikawa.shinafu.jp/
■資料:シナノキ樹皮で縄を作るhttp://ecotourism.or.jp/pdf/monodukuri/manual_sinanawa20140713.pdf

樹木を倒して、内皮を剥がしたところ。
種小名は不明だが、日本で採取。


■Tilia platy phyllos, Tilia platy cordata

ヨーロッパ分布で樹皮の靭皮繊維を使う。lime tree, lindenと呼ばれる。
■資料:Jon's bushcraft: Processing Lime bark for cordage fibers(2017.2.5) http://www.jonsbushcraft.com/lime%20bark%20tutorial.htm


アカネ科

■Paederia foetida

ヘクソカズラ。太いツルも柔軟である。




アカバナ科

Chamerion angustifolium

ヤナギラン。地域絶滅危惧種に指定されている地域がある。茎の外皮の繊維を撚って縄類を作る。資料:The Koryak by Waldemar Jochelson, ロシア極東の民族について。


アケビ科 Akebia

Akebia quinata

写真は熱海で2003年4月撮影。落葉ツル性 郊外の山でも見かけるが、採集できるほどは無い。
アケビ科の中にはいろいろな種類があり、葉の枚数や形、花や実などで見分けることができる。生垣用に苗木が売られている。 ゴヨウアケビはアケビとミツバアケビの自然交配種といわれている。

○木に登っているツルはあまり弾力が無いので、斜面や地に這っているランナーが柔らかい。ツルは丸のまま、または割いて使う。
○同じアケビ属のムベのツルには柔軟性はあまり無いが、ミツバアケビ、ゴヨウアケビ、アケビのツルの地面を這うランナーは柔軟。
○ツルを秋から冬にかけて採るが、細いが、春のランナーも柔軟で編むことができる。



○かご編みの素材としてミツバアケビ、ゴヨウアケビを使うという人がいて、どのアケビ属を使うかは私は特定できない。ただ、地を這うツルについてはムベ以外はどれも柔らかいと思う。

★素材ノート★アケビのツルの加工: 乾燥させた後、使う前に水につけて柔らかくして編むが、ツルをそのまま使うか半割りにして編む。 温泉に浸けて皮をむいてかごを編むところもあり、長野県の玩具、鳩車はその例。福島県でも皮をむいたかごの事例を見た。 日本では東北を中心に、コダシ、スカリなどと呼ばれる背負子やかごが作られてきた。 ミツバアケビであったが、ツルの先端をいけばな用に栽培している所(山形)もある。




アサ科:Cannabaceae

■タイマ、Cannabis sativa:

一年草 茎の外皮から繊維をとって縄、糸にする。取れた繊維をヘンプと呼ぶ。茎を刈り取った後、皮をむき、水につけて内側の靭皮繊維を取る。(オビキ)取った繊維は乳白色の光沢があり細い。
■資料:南会津群南郷村教育委員会発行の「南郷村の文化財7」1981年出版、 にはこの繊維を使ってどんなものが作られていたかの詳細な記録がある。 例えば、畳糸、投網糸、縄、着物、わらじ、網袋、蚊帳、馬用の尻掛け、雑巾などの記述がある。
2017.1.18更新




アジサイ科

Philadelphus spp. 

北米のインディアンが茎をかごの素材に使う。 Otis Tufton MasonによるとP.gordonianus(American Indian Basketry, p33)だが、他の種小名をあげている報告書がある。


アマ科Linaceae

■アマ、Linum usitatissimum: アマ属 Linum

繊維はフラックスと呼ぶ。茎の繊維を抽出し、縄や糸にする。 種が手に入ったので畑に蒔いて見たが、ひじょうに細く長い繊維が茎の外皮からとれた。 小さいブルーの花が咲く。

茎から採れる繊維は亜麻、リネン、flaxと呼ばれる。秋の収穫後に、池などに浸けられ、外皮をはがしやすくする。 その後乾燥させ、道具を使って茎の殻を落とす。たいへんな労力だ! 水に長く浸けると、外皮が腐って剥けやすい。(すごい匂いだけれど)

■月刊みんぱく(1986年9月号)には「・・・茎の皮がはがれやすくなるように、沼や湖の底に二週間ほど浸けられる。それから畑にひろげ、雨と太陽に二週間さらしたあと、穀物乾燥庫で乾燥させる。」とある。それから繊維を取りだすのだけれど、日本でやったらすぐに黴だらけになるだろう。 ■4200B.C.の古代エジプトの遺跡から発見されている。当時、栽培して織物に使われ、その織物に社会的な価値があり、儀式にも使われていたことが分かっている。ミイラを巻く。(Nancy Arthur Hoskins)




アヤメ科:Iris spp.

北アメリカなどで繊維植物として利用する。
■Iris macrosiphonなど。アメリカ先住民族がその葉の繊維を使って縄を作った。
■資料:カリフォルニアの先住民族の情報:Paleotechnics; http://www.paleotechnics.com/Articles/Irisarticle.html


■Iris japonica

日本のシャガ。繊維植物としての利用は知られていない。葉に繊維があり、縄をなうことができる。

 




アワブキ科 Sabiaceae

ヤマビワ, Meliosma rigida Sieb. & Zucc; アワブキ属

木部が硬く軽い。折れにくいので、鎌の柄や木刀、傘の柄、担ぎ棒などに使用された記述あり。